偉人三代目魚武濱田成夫

 自分が三代目魚武濱田成夫という人物をしったのは、高校三年時の6月頃だっと記憶している。もともと彼の名前は知ってはいたのだけれど、どんな人物なのかは全くしらなかった。
 ある日、いつものように本屋で何か面白い本はないかと物色していると、どこかで見たことのある名前が眼に止まり見てみると三代目魚武濱田成夫の詩集が幾つか並んでおり、何気なく手に取り読んでみたのが始まりだった。
 今まで国語の教科書でしか曲のついていない活字の詩を読んだことがなかった自分は彼の詩の内容、書き方、世界観が妙に気に入り買って帰りじっくり読んでみた。気がつけば、本屋の戸棚にあった三代目魚武濱田成夫関連の本は全て自分の部屋の本棚へと移動され、その本屋にはなかった本も取り寄せられていた。
 また一人かっこええと思える大人を知る事が出来た暑い日の事だった。
 その時に一番初めに購入した、『駅の名前を全部言えるようなガキには死んでもなりたくない』(角川文庫)という詩集の中に“情熱”というタイトルの詩がある。彼に魅かれることになった詩の一つである。その詩の中に、


――Baby 君が学生だった頃
先生に言われなかったかい?
もしも 自分が奴よりたとえば数学が苦手だと思うなら
もしも 奴が家に帰ってから一日に二時間勉強していたら
君はその倍の四時間やりなさい
奴が四時間やっていたら 八時間やりなさい
そうでないと 君は奴に勝てないよ
そう言われなかったかい?
だけどそれば全部正しいとは言えないんじゃないだろうか?
だって それじゃあ 二四時間やってる奴には
どうやって勝つんだい?――
というのがある。
 この詩を知る少し前に学校の授業で『産業社会と人間』という科目で行った社会人インタビューで必ずと言っていいほど出てきた“努力”という言葉。もちろん自分がインタビューした母親からもその言葉は出てきた。自分は、その“努力”という言葉の意味が妙に納得出来ない自分がいることに気づいていた。しかし、そのモヤモヤしたものをぶっ飛ばせないまま、インタビューしたことの報告をしてしまって、より一層自分の中でそのモヤモヤが大きくなってしょうがなかった。そんな時に先に書いた彼の詩に出逢ったのだった。
 大人的道徳で言えば、彼が言っているような事は屁理屈かもしれない。しかし、自分は確かにこの詩によって随分気が楽になり、他の詩によって、また一歩自分というモノを確立出来たのです。
 自分が尊敬する人、今井秀明横道坊主)さんはこう言っています。

――心を突き動かすのは、自分以外の誰かじゃないんだ。誰かの言葉を上手にキャッチ出来たあなた自身なんだ。誰かの言葉、誰かの歌、誰かの思想、もしあなたが心動かされたと感じたならば、成長したいと願うあなたの心がそこにあったからなんだ――
 では、その投手三代目魚武濱田成夫という男は一体どういう人物なのか。…。うーん。略歴では到底紹介しきれない男。それが三代目魚武濱田成夫その人なので、到底紹介しきれない。
 そんな彼の18〜22歳までの頃の事は自叙伝『自由になあれ』(角川文庫)に詳しく書かれているので、興味のある方は是非そちらの方も御覧になって頂きたい。
 その中から自分の好きなエピソードを一つ紹介したい。
 パリでのファッションショーを成功に納めた濱田成夫(この時はまだ三代目を襲名していない)のもとにパリでプロデザイナーとしての誘いや、日本でのスポンサーの話など良い話が入ってきていたのに彼は全て断ったのです。

『デザイナーになりたくてすべてを始めたわけじゃなく、自伝になるような、かっこいい男になるために、全てを始めた人間だからだ』
 という理由で全て断ったのだ。かっこいい。
 本当にやりたいことの為に、強く熱く想う自分の為に、リスクを負う事も、おいしい話も全て気にしない。そんな器の大きい人間はそういるもんじゃない。ましてや現代の紙切れや、数字によって人の価値が決められているような世界の中で自分を曝け出し生きている人なんてほんの少しの人達だけしかいないのに、そこまで器の大きい人間はよっぽどの人でないと弾き出されてしまい存在さえ忘れられてしまうと思う。殆どの人がそれを恐れ“他人と同じ事が正しい”という考えを認めてしまったのに、緩めたネクタイで千鳥足のダンスを踊りながら愚痴のオンパレード…。だからこそ、三代目魚武濱田成夫という男がかっこよく見えるんだろうと思うし、かっこいい。
 三代目魚武濱田成夫語録にこうかかれています。

――俺はかかっこええ事においての偉人だ。――
 その通りだと思う。三代目魚武濱田成夫を知っている人は誰もがそう思っていると思う。三代目魚武濱田成夫の魅力はただ単にその生き様がすごいというだけではない。彼の作品を見ると『俺も(私も)何かしよう、何か始めよう』そう思うようになることでしょう。それは、めっきり安い言葉になってしまった言葉で言えば、カリスマ性だと言えるのではないだろうか。
 ここで自分がいかに彼の魅力を唱えてもただの魚武信者の言葉だと流され、充分には伝わらないと思うので、そろそろダラダラと書くのをやめてその魅力を難しいけれど、一言で伝えたいと思います。
「それは作品を見れば解る。」
 この一言につきるでしょう。



参考文献
情熱/駅の名前を全部言えるようなガキには死んでもなりたくない (角川文庫)
GOOD Times BAD Times Vol.34 今井の横道屋 (L.S.D.)
自由になあれ (角川文庫)
三代目魚武濱田成夫語録 (幻冬舎文庫