話合#4

 バイクを止めてあるコンビにまで専務に送ってもらう車中で自分は世間話を円満に解決した間柄ということを必死で演じながら語っていた。しかし、半強制的にイエスと言わされたとしか思えない自分は、車をおり、専務の車がいなくなるのを待って、煙草を一本吸い、自分で冷静な考えができるようになるのを待った。
 煙草を一本吸い終わってもどうしても先ほどまでのあの話合の席での威圧感が残っておりとても冷静だとは言えない状況なのに気づき、とりあえず、労働局の担当者の方に話を聞いてもらおうと、電話した。
 あいにく、担当者は他の方が来客中で電話にでることが出来ないと言われ、折り返し電話をしてくれるように頼み、電話を切った。すると、今度は今会社の近くにいること自体がイヤになり出来るだけ遠くへ、そう労働局の近くへ行きたいと思った。幸い、会社から家までの間に労働局の建物はあり、自分は労働局に行くにしろ、家に帰るにしろどちらでもいいからだれか知ってる人に会いたいという気持ちでバイクを走らせた。
 道中、気持ちは急いでいたのだが、白バイやパトカーやらが眼に止まり、自分自身冷静ではいないと感じている状況でそれらの近くを走行することは何かとめんどくさいことになりかねないと思い、喉の渇きもあり、労働局から程近いコンビニに立ち寄り、ジュースを買い求めることにした。
 コンビニでジュースを選びレジにて会計をしてもらってる時に、携帯電話の呼び出し音がズボンの右ポケットから聞こえるのが解る。しかし、右手に携帯電話を持ち、左手に袋に入れて貰わずに受け取ったジュースと口の開いた財布を持ってる状態ではお釣りを貰うことができないではないか。まぁとにかくまずは電話にでることにした。


自分「はい、もしもし」
電話「あ、どうも、労働監督署の●●と申します」
自分「(左手に持った財布を店員に突き出し、お釣りを入れてもらう)あ、どうもお世話になってます。」
労働監督署監督官(以下:監督)「あ、●●さんですか。先ほどお電話頂いてたようなんですけれども、どうなされました?」
自分「(店の外へ出ながら)えぇ、先ほど話合の方が終わりまして…」
監督「あぁ、それでどういうことになりました?」
自分「えーと、まずはですね。話合でですね、専務と社長とあと一人ちょっと解らないんですけどいまして、四人で話をしたんですけれど」
監督「あぁ○○ですね?(この時の○○というのは役職名を言っていたようだが、上手く聞き取れなかった)」
自分「それでですね、その方が第三者の立場として話してくれるということで話をしていたんですけれど、最終的に自分が労働局への訴えを取り消して、社長の提示する15万円で折り合いをつけようということになったんですけれど」
監督「(周りの車の雑音で上手く聞き取れなかったのか聞き返す)」
自分「自分がですね、労働局に対して訴えていることを取り消して15万円で手を打とうと誘導尋問的に言わされたんですよ」
監督「えっとそれはどういう状況でですか?」
自分「えぇ、話をしていたんですけど、自分が訴えを取り消さずにお金について争うのであれば、今後自分が就職するにあたって就職出来難いようにするというような脅しをいわれましてですね。自分ちょっと怖くてですね、その場を離れたくてとりあえず、はいという返事をしてしまったんですけど…」
監督「それはちょっといかんですね。」
自分「そうですよね?」
監督「ちょっと今は自分個人としての見解なんですけど、それはちょっといかんと思いますよ。ちょっと待ってくださいね、主任と話してみます。あ、●●さん今何処にいらっしゃいます?」
自分「今自分は丁度話合の場から帰っているところですので、労働局の近くにいるんですけど、行って話したほうがいいですかね?」
監督「そうですねぇ」
自分「(先ほど電話をした時に他の方が来ていると聴いていたので)えっとここからやと、10分、15分ほどで着くと思うんですけど、今から行っても大丈夫ですかね?」
監督「(少し笑い)えぇ、大丈夫ですよ」
自分「解りました。それじゃ、後ほど…」


 といったようなやり取りをし、自分はもう眼と鼻の先に見える労働局へと急ぐのであった。
 労働局へはコンビニからそう離れてはおらず、信号を二つ過ぎ、橋を越え、もう一つ信号を過ぎると直左手にある大きな建物であり、労働監督署はその建物の一階にある。自分はこれで自分が抱いている不安が解決できるかもしれないという淡い期待を胸に建物の自動ドアが開き、奥へと進むたびに気持ちが軽やかになるのを感じた。しかし、そこは自分が思っていた雰囲気とはまったく違った重苦しい空気が流れていたのだが、それが自分が抱えている問題によって引き起こされたものだとはその時は微塵も感じていなかった。
 まず、一番先に眼があったのは、初めて労働監督署を訪れて監督官に話を聴いてもらう前に話を聴いていただいた方だった。その人が自分を見つけて席をたったのだが、当の本人である自分は相談者と勘違いされたかな?程度にしか思っていなかった。そして、眼も前に一人の男性が座っており、携帯で何やら話している様子である。これは先ほどまで自分の横に座っていた人物であるということに直には気がつかなかったほど、自分はあの話合の席で周りを見る余裕もなく、すぐ横に座っていた人物であるひとの顔すら直に思い出せないくらいだったのである。そして、その人物の対応をしているのが、自分が相談をしていた監督官の上司にあたる監督官が主任と呼ぶ方である。この方は監督官が「主任」と読んでいることからきっと主任なんだろうけど、自分が高校の時にいた生徒部の先生で野球部の主任でもある先生に似ており、さらにその先生よりも体の肉つきなんかがガッチリしており、自分は初めて見た時、座っていたのだが、眼の前にその主任が立ったのでついつい怒られるような気にさえなったものである。そして、自分が相談していた監督官を見つけた。すると、慌てたようすで受話器を手にし番号をプッシュしている。と、自分に気がついたようで、一礼する自分に慌てて近づき、自分の直近くに腰掛けて携帯電話を片手に主任と話している人から自分が見えないように立ち塞がり、こう言った。


主任「今ですね。○○(先ほどいった役職名だが再び忘れた)が来られていまして、今●●さんがいらっしゃると喧嘩になってしまいますので、後ほど連絡致します。」


 その監督官の一言で再びあの恐怖が甦った自分は素直に「解りました」と告げるとすぐさま踵を返し監督署を後にし、家路を急ぐのだった。
 家に帰り、何本かの煙草を吸い終った頃に再び携帯電話の呼び出し音が鳴るのである。


自分「もしもし」
電話「もしもし、私労働監督署の●●というものですけれど」
自分「あぁ、お世話になっております」
監督「あぁ、●●さん?」
自分「はい。」
監督「先ほどはどうもです。あのですね、あの時○○が来ていて、●●さんがおっしゃられていたことを伝えましたら、何で全てを承諾したのに今更になってむしかえすようなことをするながってな感じで怒られていましたので、あの状況で二人の話を聴くことは難しいと思いまして、お引取りしてもらったんですけど、どうなんですか?●●さんとしてはその内容に納得されていらっしゃるんですか?」
自分「いえ、自分は脅しみたいなことを言われて怖くなってその場を逃げ出すために言ったことで納得しているわけではないんですけど…」
監督「そうですか。いや、私どもとしましても、●●さんが納得していらっしゃるのならばその意思を慎重した方がいいと思いますしね」
自分「あぁ」
監督「それでですね、出来るだけ早く話を聴きたいんですけれども、火曜日の午前中とかは大丈夫ですか?」
自分「火曜日ですか?大丈夫ですよ」
監督「いやですね、月曜日にでも話を伺いたいんですけれど、ちょっと実家の方に自分が帰ってしまっていないんですよ」
自分「そうなんですか」
監督「いや申し訳ないですけどちょっと用事がありましてお休みを頂いて実家の方に帰るんですけれど、出来ればそれまでに、記憶があるうちに出来れば文章などにしておいて欲しいんですけれど、大丈夫ですか?」
自分「はい、解りました大丈夫です」
監督「そうですか、そしたら火曜日の九時でも十時でもいいですので、来ていただけますか」
自分「解りました。そしたら火曜日に」
監督「それでは失礼します」
自分「はい、ありがとうございました」


 そういった最後のやり取りが監督官と会ったが故に自分は今回話合の報告を予定していたことよりも詳しく記述したつもりである。
 そして、はてなダイアリーにて公開した内容に加筆し、校正し監督官に報告する用に修正した内容を監督官に提出するつもりである。しかし、自分は一人の人間に対してよってたかって自分の力を利用して徹底的に潰すると脅すような腐った人間にはなりたくないので、ここに公開した内容に一切の脚色がないことを誓い、また、監督官に提出するものもここに公開した以上のことを加筆はしたとしても脚色するつもりはないことを宣言する。どちらにしろ、社会からみた自分という存在の小ささからして言えば自分がどれだけ脚色し自分の意見が正しいのだと大声で叫んだとしてもそれは、例えるならば路上にて誰一人として立ち止まることのないコピーミュージックを唄う歌唄いと同じなのだと思うんだけどね。(別に路上ミュージシャンを貶しているわけではないので、悪しからず。)