薄情者。それは俺のこと。

親父から電話がかかってきた。
血の繋がりはあっても、戸籍上は既に他人の親父である。そう自分の両親は離婚している。
その親父から電話があった。

初めは何のことはない、酔ってかけてきたのかってくらいに中身のない話かのように思ったのだが、よくよく聞いてみると、田舎のばあちゃん、じいちゃん(親父の両親)がかなり体調が悪いらしく、顔が見たいと言っているのだという。
だから、日曜日に朝から付き合えという。

かなり迷った。
俺は親父が好きじゃない。むしろ嫌いだ。だから、移動時間の1〜2時間だけでもかなり辛い。
次に、戸籍上は既に向こうの家系と何のかかわりはなくともないが、血の繋がりはある。そして情もある。
あとは、話が急すぎることと、自分の時間が潰されるということくらいか。
最後の二つはとても小さいことだが、多からずとも多少は迷いを深める要因になっていた。

即答を求める親父に正直に伝えたのだが、向こうはそれらを跳ね除け無理にでも連れて行きたいという思いがある。
それは解っている。
しかし、話の途中で腰をおり、怒鳴りつけられては話は進まない。それも、軽くジャブを入れたつもりの「話が急やね」という一言だったから尚更のこと。

コイツと話をすることは無理だ。そう感じで話す気も無くなり、行く気もなくなった。
小さい頃の両親の喧嘩をよく聞いたが、母親はこんなヤツと討論できていたのかと不思議に思うし、それ以上に、その間に、姉と自分が誕生したことがかなり不思議に感じた。

そんなことを考えていたら、何やら怒って電話を切られた。
以前、母親と親父が電話していて喧嘩になり、同じように電話を切ったあと、家に怒鳴り込んできたことがあった。
それを思い出したのだが、今は向こうの知らないところに引越ししているので、その心配も無く今この記事をしたためている。

俺は薄情な人間なのか。
現在、戸籍上は繋がりのない田舎のばあちゃん、しかし、血の繋がりはあり、少なからずの情も確かにある。
母親や、母親の母親(ばあちゃん)たちに対ししてきた仕打ちや母親と親父の関係、俺が親父に対する思いを除ければ何のことはなく、単に俺の祖父母だ。
その祖父母が孫の顔を見たいと願っているのに俺は自分の思いを優先しそれを拒否した。
俺は薄情な人間だ。

離婚して初めての冬。
冬休みを利用して母方の祖父母の家に泊まっていた俺は、子どもで言葉を知らず、正月はどうするのかと尋ねた祖母に、
「○○に帰らないかんからこれんねぇ」(○○は地名)
と軽い気持ちで言った。
すると祖母は明らかに嫌な顔をした。
そのすぐ後だったか、しばらくしてからか、
「あんたが○○に帰らないかんってことはもうないがで、もう既にあんたと○○の人間は何の関係もないがやき。
お年玉が欲しくて行くがやったらその分ばあちゃんがあげるき…」
そう言った。
子ども心にそんなにも向こうの人間を毛嫌いしているのかと思ったが、なんでそんなに毛嫌いしているのか何も知らなかった自分は疑問に思ったがそれを尋ねることができなかった。
そして、正月。
ばあちゃんにいつも以上のお年玉を貰うのは何だか悪い(当時から月のお小遣いのほかにを母親から貰うこと以外に、身内からお金を貰うことが何だか悪い気がしてた。)ように感じて、ばあちゃんには内緒で親父の田舎に行きお年玉を貰った。
それから、ばあちゃん家に行ったときに、
「○○へは行ったかえ?」
と尋ねたばあちゃんに、嘘をつくことが苦手な自分は、
「うん…」
と、申し訳なく頷いた。

そんなことをちと思い出してみたが、俺は薄情者だ。
いや、もう関係ないはずだ。

だけどやっぱり、孫の顔を見たいと願う祖父母の気持ちを小さなことで裏切るのだから、薄情者だろう。
これから先、向こう必ず祖父母は死を迎える。
それがいつなのかは解らない。もしかしたら俺が先に死ぬかもしれない。しかし、通常は祖父母より孫が先に死ぬことは少ない。
その時に、俺はどうするのだろうか。
葬式に参列するのだろうか。正直、向こうの家系が全部集まるところへは行きたくない。
だから、今回と同じように断るのだろうか。
線香の一つもあげないだろうか。
今からそんなことを考えている時点でやはり俺は薄情もだと実感する。