小さな物語#5

一月二十八日金曜日

 時刻は午前六時。いつもよりも二時間近く早い起床だ。それは今日が中学生にとって人生最大の試練ともいうべき高校入試当日という特別な日だからだ。しかし、今日は一般入試とは違い推薦入試。少年達の代から推薦入試の枠決めが広く寛大なものとなり、とりわけ優等生というわけでもない少年にも推薦入試のチャンスが訪れたのだった。
 試験会場である高校までは一緒に試験を受けることになっているスケと一緒に向かうことになっていた。スケとはもう小学校以来の腐れ縁ともいう関係になっていた。
 スケとの待ち合わせの時間が午前七時半。大した準備を要することもないのだが、緊張のせいか何度もトイレと部屋を何往復もしていた。それではいけないと、気を落ち着かせる為に好きなバンドである横道坊主のCDを聴くことにした。しかし、聴いているうちにテンションは上がり意気悠々とほどよい時間に家を出た。
 そんな調子で赴いたはずだったのにも関わらず、高校についてからのことは緊張と興奮で何も覚えていない。次に記憶があるのは中学校へ戻ってきてからのことだった。
 行きは少年とスケの二人だったのだが、帰りにはそれにマーシーが加わっていた。時間もまだ四時限目だったということもあり、少年達は下駄箱で試験がどうだったとかという話をして時間を潰していた。そこに眞子が通りがった。授業中のはずのこの時間に話し声が聞こえ、ふとその方をみると、三年生が座り込んで話をしている。中には見知った顔もある。おそらくサボり組ではないだろう。
「推薦組?」
 思ったが直に声に出ていた。あの子たちにちゃんと聞こえているのだろうか。ふいにでた自分の声のボリュームに自信がない。気づかれなかったら恥ずかしいと思い、そのまま歩き続けることにしたが、少年が数回頷くのが見えた。
「ごくろうさん」
 先の眞子の質問に驚いていたのか少し固まっているように見える少年達の中で少年だけが再び頷いていた。