小さな物語#11

三月十一日土曜日

 少年達のほかに客はなかった。特別観光スポットとして取り上げているわけでもなかったし、地元の者達でもそんな場所があるなんて知らなかった。
 しかし、そんなことはどうでもよかった。後四日で中学を卒業する少年は仲の良い仲間たちがそれぞれ別の高校へと進むことが何だか物寂しく思い、少しでもこうやって仲間達と笑って遊びたかった。
 ふと、小汚い池の水の上を一匹の鴨が奥へと泳いでいくのが見えた。少年はその鴨が奥の砂地まで行くのだと予想し、手懐けようと砂地を目指した。
 予想通り、鴨はその砂地を歩いていた。後ろから静かに息を殺し近づくが、落ち木を踏んだ音に鴨が振り返り、パニックを起し鳴き出し羽をバタつかせた。すると何処からともなくもう一匹鴨が飛んできて、パニックになっている鴨を宥めるようにして池へと誘い二匹して泳いでいった。
 その光景に少年は何とも言えない感情が胸の奥の方から沸き上がるのを感じ、大切な何かを思い出したような気がした。